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東京高等裁判所 昭和31年(行ナ)17号 判決 1957年12月10日

原告 清水食品株式会社

被告 特許庁長官

主文

昭和二十九年抗告審判第二九〇号事件について、特許庁が昭三十一年三月二十日にした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告代理人は、請求の原因として次のように述べた。

一、原告は昭和二十八年四月十三日別紙目録記載の原告の商標について、第四十五類「魚介類の味付、水煮の罐詰」を指定商品とし、登録第三二〇一二七号及び同第三二〇一二八号商標の連合商標としてその登録を出願したところ(昭和二十八年商標登録願第九七七四号事件)、昭和二十九年一月十六日拒絶査定を受けたので、同査定に対し同年二月十九日抗告審判を請求したが(昭和二十九年抗告審判第二九〇号事件)、特許庁は、昭和三十一年三月二十日原告の抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は同年四月九日原告に送達された。

二、原告の出願にかかる商標は、別紙に記載されたように、「横長方形の内部を縦に四等分した線と、上縁部に近い横直線と下縁部に近い横波状線との三線の交叉によつて生じた各区劃内を、赤色と黄色とが互い違いになるように塗り潰した独特の図形」から成り、かつ、右の通りにその着色を限定した構成にかかるものである。

審決は、右原告の商標を、「赤色と黄色で下辺を波型とした市松模様を横長に表わして成る着色限定の商標」と認定した上、右商標は「その構成上記のとおりであるから、赤色と黄色の変形市松模様であるというを社会通念に照らし相当とし、このような市松模様からなる本願商標は、一般世人の注意を惹起せしめる特定した部分が存しないので、看者の注意力を散漫にし、特定の図形たるの認識を与えない地模様と判断せざるを得ない。」とし、結局原告の本件商標は、これをその指定商品に使用しても自他商品の区別の標識としての商標法第一条第二項に規定するいわゆる特別顕著の要件を具備しないものと認めざるを得ないとしている。

なお原告は、右商標が原告の製造販売にかかる商品「魚介類の味付、水煮の罐詰類」について、昭和六年頃から今日にいたるまで永年の継続使用により特別顕著性を取得したと主張したが、原告の提出した証拠のみを以ては、これを認定することができないとしている。

三、しかしながら審決は、次の理由により違法であつて、取り消されるべきものである。

原告の出願商標は、原告の製造販売にかかる商品魚介類の味付、水煮の罐詰について、昭和六年頃からこの商標を盛大に継続使用中であつて、本件商標はこの永年の盛大な使用によつて、取引者需要者の間に広く知られるようになり、今日においては他所の同種商品との明確な区別の標識となつているものである。

しかのみならず審決は前に述べたように、「このような市松模様からなる本願商標は、一般世人の注意を惹起せしめる特定した部分が存しない。としているが、右審決の理由は、商標が自他商品を区別せしめるに足る特別顕著性を具備するか否かを、単にその商標の構成自体だけによつて決定したものであつて、この商標とその指定商品との関係において、一般の取引者需要者が、この商標によつて商品の出所を認識し得るか否かの点を全く等閑視したことは明白で、この点からいつても商標法第一条第二項の特別顕著の要件の解釈を誤つたものである。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張の請求原因に対し、次のようにに答えた。

一、原告主張の請求原因一及び二の事実はこれを認める。

二、同三の主張はこれを否認する。

原告の主張は、むしろ原告において、審決の理由を曲解しているに過ぎないと解せられ、審決は商取引上における経験則及び社会通念に則した極めて妥当適正なもので、原告のいうような違法はない。

原告の本件商標は、その指定商品に対する関係において、一般取引上は単に装飾としての感情を惹起せしめるに過ぎず、自他商品の区別標識としての注意を惹起せしめるものではない。

第四(証拠省略)

理由

一、原告主張の請求原因一及び二の各事実は当事者間に争いがない。

二、右当事者間に争いのない事実及びその成立に争いのない甲第一号証(本件商標登録願)によれば、原告が登録を出願した本件商標は、別紙記載のとおり、横長方形を、左右の短辺に平行に、縦の直線で四等分し、上下の長辺に沿い、上部には僅かの間隙を残して横直線を、下部には上部よりは広い間隙を残して緩い横波状線を描き、横直線と横波状線は、左右の縦直線と相まち、四個のほぼ正方形(下辺はもちろん直線ではない。)を構成するような図形からなり、かつ左から第一と第三の正方形を赤色、第二と第四の正方形を黄色で、また赤色の正方形の上下は黄色、黄色の正方形の上下は赤色で、いわゆる市松模様を構成するように、互い違いに塗り潰したもので、着色を右のとおり限定し、第四十五類「魚介類の味付、水煮の罐詰」を指定商品としたものであることが認められる。

三、原告代理人は、右商標は、原告の製造販売にかかる商品、「魚介類の味付、水煮の罐詰」に昭和六年以来盛大に使用しこれにより取引者需要者の間に広く知られ、商標法第一条第二項にいわゆる特別顕著となつたものであると主張するので判断するに、原告が検証の目的物として提出した検甲第一、二、三号と証人浅井二郎、内藤考作、岡武夫、土屋豊吉の各証言並びにその成立に争いのない甲第一号から第九号証までとを総合すると、原告会社は訴外日本水産株式会社及び訴外日魯漁業株式会社とともに、わが国における屈指の魚介罐詰等水産物の製造販売業者であるが(原告会社は、外に農産物の罐詰の製造をも行つている。)、原告会社は、昭和九年以来、その製造するまぐろ等水産物の罐詰のうち、内地向のもの全部に、水産物であることを示す波型をかたどつた緩い横波状線を下部に持つ本件の赤黄の市松模様の商標を採択使用して爾来今日に至つたものである。そして原告の右商標は、原告の事業が盛大に赴くに伴い、今日においては、あたかも検甲第二号の「三本の線」及び検甲第三号の「日の丸」が、それぞれ日魯漁業株式会社及び日本水産株式会社の製造にかかる商品であることを示すと同様に、前述の図形は顕著な着色と相まち、それのみによつて、取引者需要者の間に、これを付した商品が原告会社製造の水産物であることを認識せしめているものであることが認められる。してみれば原告の本件商標は、すくなくとも今日においては、永年の使用により、いわゆる特別顕著性を有するに至つたものと解するを相当とする。

尤も被告代理人の指摘するように、原告会社製造の内国向水産物に実際に使用せられたラベルには、甲第十号証の一、二、三にみるように、本件商標の外に、原告会社の略称を示すS、S、Kの文字及びまぐろフレーク、さんま味付等それぞれ罐詰の内容に応じた図形及び文字が記載され、決して本件の商標ばかりが単独に使用されたものでないことは、前記各証人の証言によつても明白であるが、本件商標は右SSKの文字及び、内容の表示の文字及び図形とはかかわりなく、これのみによつて、原告の製造にかかる商品であることを認識せしめるものであることは、前段認定のとおりであるから、右被告代理人の主張する事実は、前記の判断を覆えすものではない。

四、以上の理由により、原告の本件商標には特別の顕著性がないとした審決の判断は不当であつて、原告の本訴請求はその理由があるから、特許庁のなした抗告審判の審決を取り消し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 原増司 高井常太郎 久永正勝)

(別紙)<省略>

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